実のところ、Liella!の「Sing!Shine!Smile!」について、これまでずっと引っかかっていたことがある。どういうわけか、今日大学で試験監督補助のためにぼーっと立ち続けていた時に、「あっ」と気付き、その引っかかりが取れて嬉しくなったので、筆を執っている。
好きの理由とは
僕がずっと気にしていたのはこのフレーズ。
好きに理由なんかいらないよ
気付いたんだ
Sing!Shine!Smile!/Liella!
Sing!Shine!Smile!の中でも随一の存在感を放っているこのフレーズ。言っている意味は理解できるが、何となくしっくり来ていなかった。
そのしっくり来ない理由すら言語化できていなかったのだが、今になって思うのは「楽曲になぜこのフレーズを入れたか」という疑問なのだと思う。
フレーズの意味そのものは理解できる。でもなぜこのフレーズが、東京大会という場で披露する楽曲に必要だったのかが理解できていなかった。
好きの権威
まず、「好きに理由なんていらない」ということについて改めて考える。
そもそも好きに理由があるというのは、別に珍しくないと思う。僕は貝類が好きなのだが、それは貝の旨味が美味しくて、食べると幸せに感じられるからである。これは好きの理由だ。あと僕はLiella!が好きだ。皆かわいいし、歌はメッセージに富んでいるからだ。これも好きの理由だ。
つまり、好きに理由は全然あって良いのだと思うし、その理由を認識することで好きだという気持ちを確認することもできる。
Wake up! 思い出そう スキには理由があるさ
Wake up, Challenger!!/Aqours
となると、Liella!が歌う「好きに理由なんていらない」とはどういう意味なのか?
僕が思うに、「好き」という気持ちをより輝かしく見せつけるための理由付けはいらない、ということだろう。
好きという気持ちが強く輝いていると他者に感じさせる力を「好きの権威」と呼ぶことにすると、「好きに理由なんかいらない」というフレーズはまさに好きの権威を放棄する宣言なのではないだろうか。
言うなれば、好きという気持ちは自分の中でしっかり抱えてさえいればそれで良く、別に人に見せるためにもっともらしい理由をこしらえる必要もないということだろう。
1つ補足すると、ここで言う「好き」というのは、感情に限らず「好きでやっていること」という行動も含んでいるのだと思う。
恐れ
以上が「好きに理由なんかいらないよ」自体の意味であるが、本題はなぜそういうフレーズを歌うに至ったのかということについてである。
先ほど「好きの権威を放棄した」と述べたが、それはつまり放棄していなかったLiella!が存在したということでもある。無いものを放棄できないからだ。
ラブライブ!で優勝した憧れのSunny Passionは、小さな島国出身で、島民の想いを背負っているスクールアイドルである。東京の中の原宿の中のほんの一部でしかないLiella!からすれば、好きの権威を感じさせられたのではないだろうか。自分たちより大きいものを背負ってるんだな、と。
私達ね、もう一度優勝したいって思ってるの。知ってる?ラブライブ!の歴史上、連覇を成し遂げた学校は一つもない。もし成し遂げればSunny Passionの名前は、ラブライブ!の歴史に深く残っていく。学校の名前も。島の名前も。
ラブライブ!スーパースター!!2期3話
ウィーン・マルガレーテは、”あの”音楽の都ウィーン出身で、”あの”Sunny Passionを打ち負かしてしまった存在。得体はしれないが、メディアも注目している様子。Liella!はここでもやはり好きの権威を感じさせられたのではないかと思う。
それに対してLiella!はどうか。結ヶ丘はどうか。
ウィーンのような歴史もない。原宿を代表しているわけでもない。学校の皆の想いを背負っている?そんなのどこの学校も同じであろう。改めて考えてみると、Liella!は自分たちがやっている「好き」を”分かりやすく”説明する特徴的な好きの理由がないのである。
これは3次元でも似たような話ができる。初代のμ'sは存在そのものが特別で、沼津を背負うAqoursに圧倒的な歴史を受け継いできた蓮ノ空。虹ヶ咲に関してはラブライブ!を放棄した以上わざわざ好きの権威を意識する必要が最初からない。
後輩グループだからいまのLiella!がやっていることは大抵先輩がやってきたことでもある。そのため、Liella!らしさはますます見えづらくなる。唯一あるのは一般公募オーディションぐらいだろうか。
話を戻すと、Liella!というのは他の有名なグループのように”分かりやすい”好きの理由を持っていない。なぜラブライブ!を目指すのか、なぜスクールアイドルでなければいけないのか、それに対してLiella!にしか出せない(ように見える)答えというのは、存在しないのではないだろうか。
そのグループにしか出せない(ように見える)答えというのは、好きの権威を強める要素である。なぜなら、他のグループがやっていることをやっても、特別でもなんでも無いからである。特別な理由が見えるから「ああ、凄いね」という感想を引き出すことができる。
だからLiella!は好きの権威が弱く、ウィーン・マルガレーテをあそこまで恐れたのだと思う。その結果が平安名すみれの2期生切り捨て発言にも繋がったのではないだろうか。
すみれ「あの子に勝つには、決勝に進むにはそれしかないって。」
可可「すみれ...」
かのん「どうして?そんなにあの子が怖いの?」
すみれ「Sunny Passionを倒したのよ?当たり前でしょ?」
ラブライブ!スーパースター!!2期9話
好きに理由なんかいらない
そんな好きの権威が弱いLiella!だからこそ辿り着いた結論が「好きの権威の放棄」だったわけである。つまり、他者に対して権威を振りかざすことを諦め、自分たちの好きと結びをただただ信じたわけである。(それがどれだけ難しいことか!)
Sunny Passion含め、これまで先輩グループが見せてきたラブライブ!での勝ち方は好きの権威を目一杯振りかざすことだった。しかし、勝利の本質は権威にあるのではなく、権威に従う人間の方にある。だから、Liella!はその人間の方に注目し、結びという名の同盟を作り、勝利をもぎ取った。
これがSing!Shine!Smile!のストーリーなのだと思う。このストーリーを踏まえると、「好きに理由なんかいらないよ」と歌うのはもはや必然なのである。権威を持っていないから仕方ないのだが、そもそも必要ないのだ、と機転を利かせた。
皆が好きの権威を振りかざす戦いにおいて、それを放棄したことによって、勝利を掴むというのは、なかなか皮肉が効いている。しかも放棄したこと自体が、Liella!の持つ「好き」の純度の高さを際立てる効果もある。
そしてLiella!が虹ヶ咲と異なるのは、戦いそのものを放棄した訳では無いという点だ。戦い方を変えただけである。
そんなLiella!だから、決勝の舞台で披露した「未来の音が聴こえる」は優勝後の未来を歌うなどという、必死に優勝を目指す他校のスクールアイドルなどお構いなしの傍若無人ソングになったのだと思う。
さいごに
「好きに理由なんかいらない」という標語自体はLiella!を追いかけている人にとっては、もはや当たり前とさえ言えるほど浸透した思想だという気がする。
しかし、なぜこれをLiella!が歌ったのかまで考えると、他ならぬLiella!自身が好きの権威の弱さに苦しんだのではないか、ということが窺える。
ないないづくしのLiella!だったからこそ、自分たちの好きをただ強く信じることの価値に気付くことができた。この姿勢はSecond Sparkleなど、多くのLiella!楽曲に現れているように思うし、そうやって何度も歌う必要があるほど難しく、大切ということだろう。そして、その信念が"正しい"と認定された代表的な楽曲が「Sing!Shine!Smile!」なのだ。